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中国・香港出張報告
1.この週末、北京、香港、湖南省・長沙を訪問し、中国の経済、政治情勢について意見交換を行った(当初予定したボアオ・フォーラムは、国会の予定、要人面談の都合で行けなくなり、大変残念であった。)

2.中国経済の減速がよく話題になるが、現地の肌感覚としては、底堅いものがあると感じた。沿岸部の経済、特に企業立地について、しばしば①人件費の高騰により、企業の撤退が増加している、②リーマン・ショック後の4兆元(約50兆円)の景気刺激策による内陸部の仕事の増加、人件費の上昇(沿岸部の賃金に近づいている)により、沿岸部で人材確保が難しくなっている、それによりさらに人件費が上昇せざるを得ない、といった指摘がある。確かに広東の深センはじめ沿岸部の人件費は毎年約15%ずつ上昇しており、今や2000元(=約25000円/月)~3000元(=約37000円/月)までになっている。人を集めにくくなっているのも事実である。しかし、現地の企業によれば、例えば、深センにおいて、今年の旧正月(2月)明けに、最低賃金のアップを発表したところ、やはり優良・人気企業には内陸部から出てくる人たちの多くの募集があったという。

3.また、よく報道されるアップルの下請けを行っている、FOXCONN(シャープに出資した鴻海グループ)の労働環境の悪さについても、深センのFOXCONNには約45万人の労働者がおり、全体としては人気のある企業としての評価であった。特に15人の自殺者が出ていることについては、報道によると約45万人のうちの15人で、その割合は、日本で毎年3万人の自殺者が出ている割合より低い。フランスも「同国の自殺者の割合はそれより低い」と報じている、との指摘があった。

4.他方、内陸部の湖南省・長沙市での人件費も、確かに上昇しており、製造業で1500元(=約20,000円/月)程度、人気のサービス業で2000元(=約25,000円/月)、大手製造業の初任給は、大学卒で3000元(=約37,000円/月)、大学院卒で6000元(=約75,000円/月)、つまり月10000元(=約130,000円/月)程度の給与の従業員もざらにいるとのことである。毎年2回の昇給を行っている企業もある。また、現在、長沙市では、あちこちで地下鉄工事を実施するなど(写真①)、インフラ整備を急いでいるし、三菱自動車、フィアット、BYDなどの自動車メーカーも集積しつつある。さらに、地場の建設機器大手の三一重工()、中連重科も立地しており、こうした製造業の関連部品企業も活発である(、④)。三一重工の工場視察では、あの福島第一原発への給水で活躍した「大キリン」のポンプ車の製造過程を見させてもらった()。

いずれにしても、省の書記が第6世代リーダーの一人である周強氏ということもあり、年率14%の成長と、経済は極めて力強い(、⑦)。案内してくれた湖南省の外事弁公室の人たちも、スマホを片手に効率的に仕事をしている()。

ちなみに、GDPでみると、広東省1省で46,013億元(=約60兆円)とインドネシア並みであり、湖南省も12,930億元(=約30兆円)とマレーシア、シンガポールと同規模である。ラオス、ミャンマーと国境を接する雲南省ですら7,220億元と約10兆円近い大きさで、ベトナムと遜色ない。近隣国からは1省ずつが圧倒的存在感なのである。

5.その周強氏とは、4度目の会談である(:2010年5月5日活動報告2010年12月28日活動報告参照)。湖南省の経済発展に自信たっぷりであった。昨年完成した新空港は年間1400万人もの乗降客があり、北の武漢までも高速鉄道で1時間以内と、地域の中心地としての存在を高めている。街は、深夜までにぎわい()、ユニクロも間もなくオープンである()。今回の会談では、薄煕来氏の事件や今秋の中国の党人事については、さすがに話題にあがらなかったが、将来のリーダーを予感させる落ち着きぶり、余裕があった。同世代で共にリーダーとして活躍することを想い浮かべながら、今後とも意思疎通を図っていきたい。

6.なお、香港は世界第3の港であり()、現在、落ち込んでいる欧州向けに代わり、米国向けが急増しているが、やがては、深セン港にその地位を脅かされるかもしれない。経済活動が自由で、法治主義が徹底している香港を“北京”がどうしようと考えるか?5年後の2017年の普通選挙を前に、この自由な経済環境を継続し、中国としてメリットを享受するか、それとも中国本土と同化していくのか。前者の可能性が高いと考えるが、北京政府は急速な民主化とそれに伴う混乱だけは避けたいはずである。これも注目すべき点だ。