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再生可能エネルギー買取法案を考える。
1.「再生可能エネルギー買取法案」が関心を集めている。太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、地熱発電、水力発電といった自然エネルギーの導入を増やすため、固定価格で買い取り、その分電気料金に上乗せし、広く国民が負担をするという仕組みである。私自身、通産省(現・経済産業省)勤務時代から、自然エネルギー導入には積極的に関わってきており、1992年頃には、石油代替エネルギーの導入促進法改正の条文を作り、促進のための施策の拡充を行った。そして、私の地元淡路島が、太陽光と風力、そして潮力やバイオマス資源等に恵まれていることもあり、その意味で、新エネルギー導入促進は私のライフワークの一つである。私は、本制度の導入には基本的に賛成である。

2.しかし、導入に際しては、検討すべき課題が多いのも事実である。
第一に、この買取価格の決め方が極めて重要なことである。買取価格を低く設定すると再生可能エネルギーの導入は進まない。他方、高すぎると、再生可能エネルギーの導入は進むが、国民の電気料金の負担によって、不当に高い利益を得ることにもなりかねない。さらに、太陽光パネルにしても、普及に伴ってその価格は下落するのであり、少なくとも一年毎には価格の見直し(引き下げ)を行わなければならない(「チューニンング」と呼ばれる)。ところが、政府提出の法案では、経産省は独自に買取価格を決めることとなっており、これでは公平性・透明性は確保できない。一定の国会の関与が必要ではないかと考えている。

3.第二に、先行してこの制度を導入しているドイツ、スペインのケースでは、安価な中国製の太陽光パネルが大量に導入され、ドイツでは50%以上、スペインでは80%が中国製品となってしまっている。もちろん、自由貿易、自由競争が原則であり、WTOの国際ルールから言っても、我が国においても内外無差別に取り扱うのが大原則であるが、効率の悪い製品が広がったり、万が一の事故があってはならない。そのための品質基準や安全基準を設定することも必要である。また、国民の電気料金の負担によって導入を進めるのであるから、国内の産業育成の視点が含まれるのも当然である。ちなみに、先般の中国の温州での高速鉄道事故は、世界中にとって衝撃的であったが、他方、3月11日に東北大地震が起こった直後、東北新幹線は、最初の揺れを感知してからわずか9~12秒後に非常ブレーキが作動、一番強い揺れの時には時速100kmまで減速後、すべての列車が停止し、新幹線の事故は発生しなかったのである。日本には誇るべき技術がある。

4.第三に、この制度により電気料金が上昇することである。原発が停止し、化石燃料にシフトしていることにより、かなりの電気料金上昇が見込まれる上に、本制度導入に伴う国民の負担増である。一体、国民負担はいくらになるのか、その全体像が示されないと議論は進まない。低所得者層や電力多消費型産業への配慮も必要である。

5.以上、詰めるべき論点は多いが、しかし、菅総理はこうした制度設計についての真摯な議論をやらずに、「俺の顔が見たくないなら法案を通した方がいい」とパフォーマンスに終始しており、与野党で真面目に議論を詰めている実務者からすれば、頭にくる話である。

6.菅政権は、何事も“ウケ狙い”のパフォーマンス政治である。そのため、一貫した戦略や目標を持たず、その場しのぎの場当たり的な対応がはなはだしい。正に日々国益を失っている。一日も早い退陣を望むものである。しかし、総理が誰であれ、政策責任者としては、日本の将来のためにより良い制度とすべく、ひたすら議論を詰めるだけである。真面目に議論できるメンバーで党派を超えて真摯に議論を重ね、よりよい制度にして成立させたい。