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「百年に一度のピンチ」を「国家百年の計」を考えるチャンスに
1.11月1日のブログに引き続いて、今回の緊急経済対策について考えてみたい。
今回の金融不安は、確かに百年に一度とも言える経済危機で、確かに大ピンチではあるが、この際、改革できなかったことがらや、積み残してきた課題に取り組むチャンスでもある。既存の仕組みやその延長だけでは、今回の危機には対応できず、大胆な予算も投入するのであるから、将来の日本を見据えた思い切った改革・対策を行う絶好の機会なのである。その意味で、「百年に一度の危機」を「国家百年の計」を考え、スタートを切る機会にすべきであると考える。

2.ちょうど、先日報道された三洋電機とパナソニック(松下電器)との合併はいい例である。金融危機となり、三洋電機の大株主であるゴールドマン・サックスや三井住友銀行が売却(現金化)を急いでいるという事情もあるだろうが、「金融危機をきっかけに」業界再編、日本の産業競争力強化が行われるのである。三洋の強みである「電池」はともかく、冷蔵庫、洗濯機、掃除機といった、いわゆる「白モノ家電」は、なかなか儲からないが、一般消費者にブランドを認知してもらうには、この「白モノ家電」の生産も必要、といった性格の部門であり、松下との合併によりこうした部門の改革にもつながり、利益率向上に資するものと期待する。なかなか「ふんぎりがつかない」ことが、大ピンチだからこそ「決心する」ことができるのである。

3.同じようなことが、日本経済全体についても当てはまる。日本経済の構造を変える大チャンスなのである。日本経済は、これまで「輸出」と「外国からの投資」に頼って景気回復してきたのであるが、「輸出」に頼らず、国内の消費・投資によって富を増やしていくことを考えたらどうか。即ち、今こそ、国内の消費(内需)を喚起し、国内でお金が回り富を生み出すように大胆な政策を実施すべきである。例えば、住宅取得やリフォーム、エコカーや太陽光発電の普及のために、大胆な減税措置や助成措置を行うべきである。さらに、いずれ必要となる小学校の耐震化や災害対策などの(公共)投資を、思い切って前倒しして実施すべきである。(一方で、無駄な公共事業を削減することも当然である。)
また、国内には、トヨタ、ホンダ、松下はじめ世界的な技術を有する優良な企業が数多くあり、一方で1400兆円もの国内貯蓄があるのだから、外国からの投資に頼ることなく、国内の貯蓄が国内での株式投資に向かうようにしなければならない。その意味で証券関連税制の軽減措置を3年間延長したことは重要であるが、さらに、10年、20年といった株式の長期保有について、大胆な税の優遇措置も検討に値すると思う。志を持った若い人たちが起業するベンチャー企業や、IPS細胞の山中教授のような、大学での最先端の研究開発に対して、国内で必要な資金が回る仕組みを考えなければならないのである。

4.このように、そもそも、技術、資金力、人材のある日本経済が、輸出や外資に頼ることなく、国内でお金が回り富を生み出す「自立」した経済を作り上げる絶好のチャンスである。もちろん、輸出や外資による投資を否定するものではなく、むしろ奨励・促進するものであるが、日本の成長のエンジンとして“内需拡大”により、海外の動向に左右されず国内でお金が回り、富が増えることを目指すべきなのである。
食生活の改革・改善にもあてはまる。食の安全が脅かされる今、安心・安全な食材を供給できるよう、株式会社の発想・知恵も取り入れながら、ブランド化を含め、農業・漁業の生産基盤をもう一度建て直し、高い食糧自給率の復活を図ることも大事である(現在の自給率は約40%であるが、30年前は約70%であった)。
また、急激な円高は日本経済にマイナスではあるが、冷静に考えれば、石油や鉄鉱石など原材料は安く買えるし、海外への投資も極めて安くなる。アフリカや中南米の資源権益を確保し、エネルギー供給源の多角化や中東へのエネルギー依存の低減につなげるチャンスである。苦しいからといって「内向き」になるのではなく、本来の日本は「海洋通商国家」として果敢に海外に目を向け、貿易により発展してきたのであり、今般の大陸棚の延伸認定によりさらに広がるであろう「排他的経済水域」(200カイリ)における豊富な鉱物資源の探鉱開発も進めなければならない(なお、日本の対外戦略については、別の機会に書いてみたい)。

5.さらに、子育て支援・少子化対策も、いつも小出しで、なかなか思い切った措置が取れてきていないが、少子化の流れを変えるための大胆な支援策にカジを切る大きなチャンスである。
今回の経済対策では、①不足している保育所の整備などに1000億円確保、②出産費用の無償化、妊婦検診14回の無償化、③通常の児童手当に加えて、第2子の3~5歳児に特別手当の支給(年間3.6万円)、などを実施することとしている。
私も3人の娘の子育て実践中であるが、子育てで一番きついのは小学校就学前である。乳児のときには、毎晩夜中に起こされるし、幼児にはいつも誰かがついていないといけない。手間がかかる時であり、精神的にも金銭的にも負担感が大きい時期である。やはり保育所はありがたいし、最近では幼稚園でも実施している延長保育や、保育所の一時預かりは、専業主婦にも要望が多い。「つどいの広場」事業など、子育て世代のお母さん方が集い、悩みを分かち合うことも圧倒的に要望の高い事業である。こうした未就学の幼児期の保育サービスの多様なニーズに応えることが極めて大切である。その上で、今回の特別手当ての支給は、まだまだ額は小さいが、将来の(幼稚園・保育園問わず)幼児教育の無償化を実現する大事な第一歩として評価したいのである。

6.そして、「拝金主義」や行き過ぎた「マネーゲーム」に毒された社会を、今一度、日本の地域社会本来の健全な社会に再生していくことが大事である。「楽して儲けよう」とか「人を騙してでも自分だけ儲かればよい」といった風潮が広まっていることを大変危惧している。「振り込め詐欺」はその典型である。やはり、朝早く起きて汗水たらして働き、(何も一人で生きていくことを選択することを否定するものではないが)やがて結婚し子供を持ち育てる、そのことが何よりの幸せであるという健全な「職業観」、「家族観」を、子供たち、若者たちが自然に持つように、教育の改革や、地域コミュニティの再生を急がなければならない。その意味で、地域のお祭りや行事を継続維持していくことも必要であるし、退職された企業人や現職のお父さんが、地域の小・中学校の教壇に立つことや、大学を高齢者や地域住民に開放し、生涯学習の場を提供することも一案である。

7.また、今回、道路特定財源から1兆円を地方独自の財源として配分する方針を決めたが、これも地方主権ひいては、道州制への大きなステップになるものと思う。道路特定財源の一般財源化については、車のユーザーからすると納得が行かないところであるが、私がかねてより主張してきたとおり、地方で消費されたガソリン税分について、地方で使うとなればユーザーの納得を得やすくなるものと考えられる。
一般的に、地方ほど車の所有台数が多く、一世帯あたりのガソリン消費量は東京の6-7倍にもなる。したがって、国税のまま一般財源化され、年金や福祉にも支出されるとなると、人口の多い東京や大阪の方々への支出が増え、結果として、地方の(ガソリン税)負担により都市部の人々の社会保障を手当てするという、「逆の」所得移転が起こってしまう。これでは地方の車(ガソリン)ユーザーは納得できない。しかしながら、自分の支払った税金が自分たちの地元で使われるとなると、道路整備であれ、医療体制の整備であれ、教育の充実であれ、それぞれの地方の優先順位で、その支出内容が変わるとしても、納得しやすいものとなるであろう。
この意味で、今回の「地方に1兆円配分」は地方主権への大事なステップとなる提案であると考える。また、国の地方部局の廃止も動き始めた。できることなら(例えば10年後の)道州制導入を決定し、中央から地方へ大胆に権限を移すべきである。中央の官僚主導の国づくりは限界に来ている。この国をつくり変えるチャンスである。

8.そして、何より国民の皆さんに安心して頂ける「年金・医療・福祉の制度」を作り上げることが大切である。地方の医師不足や救急体制の不備は限界まで来ているし、社会保険庁への不信がここまで高まり、保険料を納めない人が増えている以上、思い切って基礎年金を「税負担化」することも視野に入れて年金制度の再構築を急がなければならない。介護報酬については、来年4月より3%上乗せすることを決定したが、介護人材の確保が急務である。いずれにしても、社会保障費「2200億円の削減」の方針をやめ、方向転換するいいチャンスなのである。

9.以上のように、様々な視点に立ち、100年に一度とも言われるこのピンチをチャンスに変え、我が国の経済・社会の構造転換を図り、ゆとりある住宅や安全な食生活、そしてエネルギー負荷の軽減・エネルギー源の多角化など、新しい時代の豊かな社会を目指して、私たちの生活環境を大きく改善するチャンスなのである。そして、少子化傾向を断ち切るとともに、地方分権や安心できる社会保障制度をつくるチャンスである。
そのためには、官僚主導ではなく、政治主導で、「国家百年の計」を考えなければならない。中長期的な税制改革を視野に入れなければならないが、まずは各省庁の特別会計や外郭団体に隠している「埋蔵金」を吐き出させ、経済を内需主導の成長路線の軌道に乗せることが緊急の課題である。
そして、政治への信頼回復のためには、官僚が作り上げた天下りシステムにメスを入れ、また、国会議員の定数も半減する、といった決断が必要である。一刻も早く国民の政治不信を解消しなければならない。
この「百年に一度のピンチ」を「国家百年の計」を考え、実行に移すチャンスとし、内需主導の「自立」し「持続可能」な経済・社会の仕組みを確立すべき時である。わが国の経済・国民生活の安定・繁栄につながるよう、全力を尽くしたい。